ラヴェル

2016年4月13日 (水)

詩人ラヴェル

詩人ラヴェル

ラヴェルの合唱曲《三つの歌》の第2曲“三羽の美しい天国の鳥たち”を理解した時の衝撃的な感動(既掲載記事参照)。何て言ったらいいか…? 張詰めた空気の中で突然堰を切ったように流れ落ちる涙...。霊的な「何か」に触れた瞬間。まさに鳥肌がたつような感動。このような感動が他にあるでしょうか? ・・・あります。今少なくともふたつの例を挙げることが出来ます。ひとつは宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』。そしてもうひとつはアイヌ伝承のカムイユカです。カムイユカはジャンル名ですので、実際はひとつではなく幾つもあるのですが、私が“天国の鳥”の記事の鷲谷さんへの「手紙」の中で触れた「タを踊りながら鳥になって天に昇って行った」というカッコー神のユカを挙げることが出来ます。これは田村すず子先生の許で知ったのでした。「ワテケさんの神謡」です。
このユカラについては、いずれ詳しく触れることになると思います、何故「ユカ」の「ラ」を小文字で「」と書くのかとかいうことなども含めて。


さて、作曲家ラヴェルは一流の詩人でもありました。合唱曲《三つの歌》も自作の詩でしたが、自作の詩の歌曲に〈おもちゃのクリスマス〉: Noël des Jouets (1905作)があります。



〈おもちゃのクリスマス〉

ソプラノ/エリー・アメリング
ピアノ/ダルトン・ボールドウィン


Noël des Jouets

Le troupeau verni des moutons Roule en tumulte vers la crêche Les lapins tambours, brefs et rêches, Couvrent leurs aigres mirlitons. Vierge Marie, en crinoline. Ses yeux d'émail sans cesse ouverts, En attendant Bonhomme hiver Veille Jésus qui se dodine Car, près de là, sous un sapin, Furtif, emmitoufflé dans l'ombre Du bois, Belzébuth, le chien sombre, Guette l'Enfant de sucre peint. Mais les beaux anges incassables Suspendus par des fils d'archal Du haut de l'arbuste hiémal Assurent la paix des étables. Et leur vol de clinquant vermeil Qui cliquette en bruits symétriques S'accorde au bétail mécanique Dont la voix grêle bêle: "Noël! Noël! Noël!"

         Maurice Ravel

以下、エレーヌ・ジュルダン=モランジュ著 安川加寿子・嘉乃海隆子共訳『ラヴェルと私たち』より引用させて戴きます。

おもちゃのクリスマス

エナメル塗った羊の群が
ざわめきながらうまやへ急ぐ。
兎の太鼓は鋭く強く、
羊の黄色い声を消す。

麻をまとった聖母マリアは
琺瑯(ほうろう)の目をぱっちり開けて、
「冬」のおじさん待ちうけながら
ねんねのエスさま見守っている。

なぜって、そばの樅(もみ)の木の下、
木陰に隠れ虎視眈々と、
陰険な犬ベルズェビュートが
色砂糖の御子(みこ)を狙ってるから。

けれども冬の小枝の先に
真鍮の糸でぶら下げられた
丈夫な可愛いエンゼルたちが
うまやの平和をしっかり守る。

金ぴかめっきのその羽鳴れば
機械仕掛けの動物たちの
か細い声と釣り合い、和して、
歌っているよ「クリスマスだ!」と。

引用、以上。


詩の中の「機械仕掛けの動物たち」を既掲載の動画『ラヴェルの世界』のモンフォールラモリーのラヴェルの家で見つけることが出来るでしょう。ファンタジー志向の初期のラヴェルらしい詩です。ラヴェル一流のメルヘンが機会仕掛けの動物たちの色彩と質感を伴って伝わってきます。


無伴奏合唱曲のための《三つの歌》は、前述のように余りに美しく、しかも霊的な、“三羽の美しい天国の鳥たち”をまん中に、両脇の2曲は、まるで異なる調子なのです。
第1曲“ニコレット”は、中世のルネッサンスのシャンソン風。皮肉たっぷりの内容。
そして第3曲“ロンド”は、これまたラヴェルのファンタジー!



《三つの歌》:Trois Chansons
1 “ニコレット” Nicolette
2 “三羽の美しい天国の鳥たち” Trois beaux oiseaux du Paradise
3 “ロンド” Rondes
1980 NDSU Concert Choir-Edwin Fissinger


1 Nicolette

Nicolette, à la vesprée,
S'allait promener au pré,
Cueillir la pâquerette,
la jonquille et la muguet,
Toute sautillante, toute guillerette,
Lorgnant ci, là de tous les côtés.

Rencontra vieux loup grognant,
Tout hérissé, l'œil brillant;
Hé là! ma Nicolette,
viens tu pas chez Mère Grand?
A perte d'haleine, s'enfuit Nicolette,
Laissant là cornette et socques blancs.

Rencontra page joli,
Chausses bleues et pourpoint gris,
"Hé là! ma Nicolette,
veux tu pas d'un doux ami?
Sage, s'en retourna, très lentement,
le cœur bien marri.

Rencontra seigneur chenu,
Tors, laid, puant et ventru
"Hé là! ma Nicolette,
veux tu pas tous ces écus?
Vite fut en ses bras, bonne Nicolette
Jamais au pré n'est plus revenue.



2 Trois beaux oiseaux du Paradis

Trois beaux oiseaux du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Trois beaux oiseaux du Paradis
Ont passé par ici.

Le premier était plus bleu que ciel,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Le second était couleur de neige,
Le troisième rouge vermeil.

"Beaux oiselets du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Beaux oiselets du Paradis,
Qu'apportez par ici?"

"J'apporte un regard couleur d'azur.
(Ton ami z'il est à la guerre)"
"Et moi, sur beau front couleur de neige,
Un baiser dois mettre, encore plus pur"

"Oiseau vermeil du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Oiseau vermeil du Paradis,
Que portez-vous ainsi?"

"Un joli cœur tout cramoisi ...
(Ton ami z'il est à la guerre)"
"Ah! je sens mon cœur qui froidit ...
Emportez-le aussi".



3 Rondes

Les vieilles:
 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 Jeunes filles, n'allez pas au bois:
 Il y a plein de satyres,
 de centaures, de malins sorciers,
 Des farfadets et des incubes,
 Des ogres, des lutins,
 Des faunes, des follets, des lamies,
 Diables, diablots, diablotins,
 Des chèvre-pieds, des gnomes,
 des démons,
 Des loups-garous, des elfes,
 des myrmidons,
 Des enchanteurs es des mages,
 des stryges, des sylphes,
 des moines-bourus,
 des cyclopes, des djinns,
 gobelins, korrigans,
 nécromants, kobolds ...
 Ah!
 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 N'allez pas au bois.

Les vieux:
 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 Jeunes garçons, n'allez pas au bois:
 Il y a plein de faunesses,
 de bacchantes et de males fées,
 garcons, n'allez pas au bois.

 Des satyresses,
 des ogresses,
 Et des babaiagas,
 Des centauresses et des diablesses,
 Goules sortant du sabbat,
 Des farfadettes et des démones,
 Des larves, des nymphes,
 des myrmidones,
 Il y a plein de démones,
 D'hamadryades, dryades,
 naiades,
 ménades, thyades,
 follettes, lémures,
 gnomides, succubes,
 gorgones, gobelines ...
 N'allez pas au bois d'Ormonde.

Les filles / Les garcons:
 N'irons plus au bois d'Ormonde,
 Hélas! plus jamais n'irons au bois.

 Il n'y a plus de satyres,
 plus de nymphes ni de males fées.
 Plus de farfadets, plus d'incubes,
 Plus d'ogres, de lutins,
 Plus d'ogresses,
 De faunes, de follets, de lamies,
 Diables, diablots, diablotins,
 De satyresses, non.
 De chèvre-pieds, de gnomes,
 de démons,
 Plus de faunesses, non!
 De loups-garous, ni d'elfes,
 de myrmidons
 Plus d'enchanteurs ni de mages,
 de stryges, de sylphes,
 de moines-bourus,
 De centauresses, de naiades,
 de thyades,
 Ni de ménades, d'hamadryades,
 dryades,
 folletes, lémures, gnomides, succubes, gorgones, gobelines,
 de cyclopes, de djinns, de diabloteaux, d'éfrits, d'aegypans,
 de sylvains, gobelins, korrigans, nécromans, kobolds ...
 Ah!

 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 N'allez pas au bois.

 Les malavisées vielles,
 Les malavisés vieux
 les ont effarouchés -- Ah!

      Maurice Ravel



以下、前述同書より部分引用。
(第1曲、第3曲の歌詞の訳詞は、残念ながら全部は掲載出来ません。)


1 ニコレット(部分)

白髪で腰曲りの、醜い、臭い、
腹のつき出ただんなに出会った
いよう! ニコレット
このお金全部ほしくないかね?


2 三羽の美しい天国の鳥たち
(これは既掲載の“三羽の美しい天国の鳥たち”の齊藤佐智江さん訳をご覧ください)


3 ロンド(部分)

オルモンドの森へ行ってはいけない
若い娘たちよ、森へ行ってはいけない
森はサテュロスや、半神半馬の怪物や、意地の悪い魔法使いでいっぱいだ、
妖精、夢魔、人食い鬼、化け物、
牧神、いたずら妖精、蛇身の女神、大悪魔、中悪魔、小悪魔、
山羊脚の神、地の神、悪霊、人狼、
風・火・地の精、一寸法師、妖術師、魔術師、
吸血鬼、空気の精、幽鬼、一つ目の巨人、鬼神、
小鬼、悪鬼、死霊使い、怨霊……ああ!


部分引用、以上。



因にファンタジー・リリック《子供と魔法》はコレットの詩によるオペラですが、元々はコレットの娘のためのバレエとして書かれた台本を、ラヴェルがオペラ化を持掛けて、依頼人のジャック・ルーシェがふたりの間に調整役として入り、かなりの部分が、ラヴェルのアイデアであるらしいのです。コレットは寛容で、喧嘩になることもなくハッピーにことは進んだようです。ドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》での原作者メーテルランクとドビュッシーとのケースや、タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』での『ソラリスの陽の下に』の原作者スタニスワフ・レムとタルコフスキーとのケースなどの、険悪極まりない諍いにはならなかったそうで、良かったですね...。





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2016年4月10日 (日)

“木洩れ日”

クラヴサンのための〈前奏曲〉(.....木洩れ日)は、チェンバロ(=クラヴサン)という楽器、その音色そのもから発想された曲と言ってよいと思います。チェンバリスト(ピアニストでもある)猿渡紀子さんの委嘱によって《ラヴェルの墓》より第1楽章“天国の鳥”が初演された同じコンサートにて初演されました。



以下、当日プログラムより転載。

髙橋 喜治:クラヴサンのための前奏曲(.....木洩れ日)

 チェンバロの猿渡紀子さんの委嘱に応えての小品。森の散策の音楽。タイトルの(.....木洩れ日)はドビュッシーの「前奏曲集」に倣って曲の終わりに書かれています。秋の色彩豊かな木の葉による光の幻影がクラヴサン(チェンバロ)の音色から自然に呼び起されましたが、それは遠い記憶の彼方の「森の散策」に繋がって行きました。

転載、以上。



クラヴサンのための前奏曲(.....木洩れ日)
チェンバロ/猿渡 紀子




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2016年4月 9日 (土)

“天国の鳥”

“天国の鳥”


Tengokunotori_2

以下、引用。


《ラヴェルの墓》より 第一楽章 “天国の鳥”

 この作品を鷲谷サトさんの想い出に捧げます。


鷲谷サトさんへ

 鷲谷さん、お元気でいらっしゃいますか? 
 ぼくは鷲谷さんからアイヌ民謡を教えて頂きました。一介の無名の作曲家に過ぎないぼくに鷲谷さんさんはほとんど知っていらっしゃる全ての歌を授けてくださったのではないでしょうか? それだけではありません。鷲谷さんが民謡の旋律を基に萱野茂さんの助けを得られてご自身でアイヌ語の詩を付けられた“アイヌ ネノアン アイヌ”に込められた思い(人間らしい人間として共に生きて行きたい、共に歩いて行きたい という思い)は、今の私にはこの世界の宝物と言えるくらいに輝きを放っているのです。
 ご近所の川に棲む鳥のことをいかにも愛おしそうに語られていましたね、鳥が飛び立つ時の仕草のことなどを。アイヌの踊りには鳥を模したものがありますから、鷲谷さんは、「こうした身近な所にいる鳥をよく観ることでも踊りの参考になるよ」と。
 鷲谷さんが亡くなられたことを聞いてしばらくしてからですが、ぼくは鷲谷さんはタ(踏舞と訳されるアイヌ伝承舞踊)を舞いながら鳥になって天国に昇って行かれたのだろうか と一瞬想像しました。そのようなユカㇻをぼくは知っていたからです。
 また、「侵略」について多くのこと考えさせられました。
 悲しいことに、人類は戦争という野蛮から未だに卒業できないでいます。
 日本は終戦後間もなくしてこの戦争を永遠に放棄することを誓いました。憲法はその誓いの書であり、何よりも軍国日本が侵略を犯してきたアジアの人たちへの確かな謝罪の証明でありました。アイヌ民族への侵略はもっと古くからのものでした。そして今からちょうど10年前に漸く北海道旧土人保護法が撤廃され、「アイヌ新法」が成立しました。その少し前に国会で萱野先生のアイヌ語が響いたこともまだ記憶に新しいことです。(その萱野先生も5月にお亡くなりになりました。そちらでお会いしていらっしゃるのでは...?)
 それなのに、今世紀はじめに9.11があり、米大統領の「これは新しい戦争である」という号令から、日本も完全に大きく狂ってきてしまいました。永遠の誓いも空しく、その崇高な誓いそのものを放棄しようという動きが増してきてしまいました。平和を祈る全世界の人たちは悲しんでいます。鷲谷さんもきっと悲しんでいらっしゃることでしょう。
 鷲谷さん、ぼくは今回のこのBouquet des Tons の皆さんからの委嘱をとても意義深いことであると思いました。Bouquet des Tons の皆さんは音楽によって平和への祈りを捧げている人たちだからです。それに今回ラヴェルの時代の戦争の前後に作曲されたぼくの大好きなラヴェルの作品の編曲と同時にぼく自身の作曲をさせて頂けたことも大変光栄なことでした。時代の流れに連れて人の趣向や考えも変わるでしょう。しかし、時と場所を超えても響き合う事ごともあるのだと思います。音楽はそのような心の連鎖を可能にする力を秘めているのだと思います。
 最後にこの作品《ラヴェルの墓》より 第一楽章 “天国の鳥”の成り立ちについての秘密のひとつを打ち明けます。
 鷲谷さんのことを思いながら始めた作曲でしたが、その途中でぼくは綿井健陽さんのドキュメンタリー映画『Little Birds - イラク 戦火の家族たち- 』を観ました。米軍の攻撃によって殺されたサクバンさん一家の3人の子供たち。そのお墓に「おとうさん泣かないで わたしたちは天国の鳥になりました」ということばが...。
 溢れるものがメロディーをより確かな形へと向かわせて行きました。
 そうです。“天国の鳥”のメロディーは正にこのことばを歌っているです。

 鷲谷さん、まだまだ話は尽きません。またきっとどこかでお会い出来ますことを信じています。その時はまたぼくのへたくそなイヨハイオチㇱを聴いてください。それまでどうかお元気で...。本当にありがとうございました。

                     2006.6.30 髙橋 喜治


▼是非読んで頂きたい鷲谷サトさんに関する本:「母と子でみる沖縄戦とアイヌ兵士」橋本進 編 
 
▼是非観て頂きたい綿井健陽監督ドキュメンタリー映画のDVD:「Little Birds -イラク 戦火の家族たち- 」  安岡フィルムス



Bouquet des Tons Vol.18 当日プログラムより若干訂正の上引用、以上。



作曲:高橋 喜治
《ラヴェルの墓》より第1楽章 “天国の鳥”
演奏:Bouquet des Tons




 

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2016年4月 8日 (金)

《ダフニスとクロエ》(つづき)- ラヴェル週間 -

《ダフニスとクロエ》(つづき)- ラヴェル週間 -

視覚的要素から解かれて、音楽のみに集中すれば、この《ダフニスとクロエ》が、大自然の中で展開する人間ドラマであるということが、嫌が応にもイメージされることと思います。そのイメージは、劇場の「舞台」という仕切られた空間を容易く飛越えてしまいます。
〈ラ・ヴァルス〉についてジュルダン=モランジュ女史が仰っていたこと(「音楽会というものは、劇場よりもずっと思考の脱走を許してくれる……舞台監督が夢を貧しくしてしまうようなことさえなければ、空想力はどんなに自由に放浪することができるだろう! だからこそ、立派な舞台装置に取り巻かれているにもかかわらず、バレエになった〈ラ・ヴァルス〉はオーケストラだけで演奏して得られたような成功は決して得ることができないのである。オーケストラは聞く人ひとりひとりに、その人だけの空想を暗示してくれるのである!」『ラヴェルと私たち』p.212)が、《子供と魔法》やこの《ダフニスとクロエ》にはもっと言えるのかも知れません。それでも、既掲載のおすすめYouTubeのコンテンツ(〈ラ・ヴァルス〉1, 2, 3《ダフニスとクロエ》一つ目は、テレビならではの果敢な「挑戦」であったことは認められますが…。

と言うことで、今回は音のみのおすすめYouTubeを共有させて戴きます。
静止画像は初演時美術を務めたレオン・バクスト(シャガールの師)の絵。



【おすすめYouTube 1】
♪《ダフニスとクロエ》♪
全曲(オーディオのみ)

シャルル・デュトワ指揮
モントリオール交響楽団&合唱団



【おすすめYouTube 1】
♪《ダフニスとクロエ》♪
全曲(ライヴ録画)

ジョセフ・ポンス指揮
BBC交響楽団&合唱団


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2016年4月 5日 (火)

《ダフニスとクロエ》- ラヴェル週間 -

《ダフニスとクロエ》- ラヴェル週間 -


「ドビュッシーの〈牧神の午後への前奏曲〉によって、現代音楽への扉が開かれた」とは、今年1月5日に惜しくもお亡くなりになられたピエール・ブーレーズ氏の言葉でしたが、その1894年の初演後、ドビュッシーの作品は、《夜想曲》(1901年全曲初演)を経て、1902年にオペラ《ペレアスとメリザンド》が初演され、確実に新しい潮流がそこから流れ始めるわけです。それは、音楽文化におけるフランス革命以来の真の革命的な出来事であったのだと私は思います。

ラヴェルの《ダフニスとクロエ》(1912年初演)は、そうした新しい潮流の始まりの中で、実に幸福な誕生をなし得た作品であると思います。まさに、若いジェネレーションから迸るように産まれ出た、新しい生命です。

今回は、既掲載のおすすめYouTube「ラヴェルの肖像」の動画から、その番組のために新たに振付けられたと思われるバレエとデュトワ氏指揮のモントリオール交響楽団+合唱団の演奏とで構成された《ダフニスとクロエ》の第一部、冒頭よりちょっと後から“全員の踊り”の直前までの部分を、まず共有させて戴きます。
原作と違い、登場人物はダフニスとクロエの二人だけの抽象化された振付けですが、美しいです。



♪《ダフニスとクロエ》より♪
バレエと演奏





こちらも冒頭が欠けていますが、ロイヤル・バレエによる全曲です。
【おすすめYouTube】





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2016年4月 4日 (月)

オーケストラの魔術師ラヴェル 5 - ラヴェルにとってワルツとは?(つづき) - - ラヴェル週間 -

オーケストラの魔術師ラヴェル 5
- ラヴェルにとってワルツとは?(つづき) - - ラヴェル週間 -

ラヴェルが作曲したワルツは他に、《高雅で感傷的なワルツ》以前の作では、《マ・メール・ロワ》の中の“美女と野獣の対話”があります。《マ・メール・ロワ》は、オリジナルは子供のためのピアノ連弾のための組曲でしたが、これもまたラヴェル自身が書いた台本によるバレエ化のために管弦楽化されました(よく知られたお伽噺※1を基に独自に脚色されている )。バレエでは前奏曲&新曲と各曲の間に間奏が加えられ、且つ、曲順も若干替えられています。「ラヴェルにとってワルツとは?」がテーマでしたが、折角ですので両者全曲を是非共有させて戴きたく思います。…名演です!

※1:シャルル・ペローの童話集


【おすすめYouTube】
《マ・メール・ロワ》
オリジナルピアノ連弾版

1_眠れる森の美女のパヴァーヌ
2_親指小僧
3_パゴダの女王レドロネット
4_美女と野獣の対話
5_妖精の園

マルタ・アルゲリッチ&ラン・ラン/ピアノ連弾


【おすすめYouTube】
《マ・メール・ロワ》
バレエのためのオーケストラ版

前奏曲
第1場_紡ぎ車の踊りと情景
第2場_
眠れる森の美女のパヴァーヌ
第3場_
美女と野獣の対話
第4場_
親指小僧
第5場_パゴダの女王レドロネット
フィナーレ_妖精の園

アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団



ラヴェルのメルヘンチックなファンタジーの世界全開の曲でしたが、この世界は後のファンタジー・リリック《子供と魔法》へと繋がるでしょうし、私はあの少々不道徳的なオペラ《スペインの時》でさえ、大人のメルヘン 大人のファンタジーであると思っています。
そう言えば、今思い出しましたが、《スペインの時》の中にもワルツはありました!

でも今回は最後のオマケに、ラヴェルが書いた最後のワルツであると思われます、私の大好きな《子供と魔法》の中のワルツをアップさせて戴き、この記事を終えようと思います。
それは後半の昆虫の羽音や梟の鳴声や蛙の合唱が響き渡る夜の庭のシーン既掲載記事参照されたし)、蝙蝠の歎きの歌の後から始まる音楽。ラヴェルのピアノ曲《夜のガスパール》の第3曲“スカルボ”を思わせる音形で始まるホルンのソロのメロディの最中、雨蛙たちが少しずつ池の縁に段々一杯に集まって来て、そして皆で踊り始めるその音楽が、テンポの速いワルツなのです。私は子供の頃(前世紀70年代はじめ)、アンセルメ指揮のスイス・ロマンド管弦楽団のレコード※2で、このオペラに取憑かれたように何度も聴いていましたが、特にこの箇所の音楽には、何故か異常に心躍らされました。その胸のときめきが今でも甦ります(笑)。

※2:現在CDが市販されています。
後註2参照されたし
 

それを僭越ながら、私の編曲によります室内オーケストラ版でお聴き戴きたく思います。



♪《子供と魔法》第2部より“雨蛙のダンス”♪
高橋喜治編曲の室内オーケストラ版

演奏:園田隆一郎指揮 O.E.K.


後註1:《子供と魔法》の中のワルツはこれだけでなく、蜻蛉の歎きの歌もそうでした。楽譜には曲想の標語として“Valse Américaine”(アメリカのワルツ)とあり、ジャズの影響濃厚です。これはいずれ「ラヴェルとジャズ」のテーマで取上げます。

後註2:《子供と魔法》は最初から最後まで通して聴かなければオペラとしてのその良さは解らないと思います。ラヴェルのこのファンタジー・リリック《子供と魔法》は、本当に感動的な作品なのです。是非、全曲を聴いて欲しい! おすすめCD⇒http://goo.gl/Owfg7E


オーケストラ版《マ・メール・ロワ》のリンク先アカウントが削除されてしまったようですので共有先を変更しました。20160520
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オーケストラの魔術師ラヴェル 5 - ラヴェルにとってワルツとは? - - ラヴェル週間 -

オーケストラの魔術師ラヴェル 5 - ラヴェルにとってワルツとは? - - ラヴェル週間 -

今回もまた、元はピアノ曲で後にラヴェル自身が管弦楽化した作品からですが、まず、シューベルトの連作ワルツの形に倣って1911年に作曲された《高雅で感傷的なワルツ》。これは翌年ラヴェルの台本によるバレエ《アデライーデ、または花言葉》として管弦楽化されることになります。



【おすすめYouTube】
《高雅で感傷的なワルツ》
オリジナルピアノ独奏版
モーリス・ラヴェル/ピアノ


【おすすめYouTube】
《高雅で感傷的なワルツ》
オーケストラ版(オーディオのみ)
(バレエ《アデライーデ、または花言葉》)
クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団


【おすすめYouTube】
《高雅で感傷的なワルツ》
オーケストラ版(ライヴ)
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 パリ管弦楽団



ラヴェル自身の演奏は、元は時代物の蝋管から起した録音ですので、その所為かどうかよく判らないのですが、時々「おや?」と思う瞬間もありますね。
オーケストラ版の方はいかにもお洒落なラヴェルらしいセンスで、大いに愉しんで作曲された感じがします。



●ラヴェルにとってワルツとは?

既掲載の「ラ・ヴァルス」と「ラヴェルの遺言?!」に関連することを書きます。

舞踊詩〈ラ・ヴァルス〉の作曲の計画は、1906年2月のジャン・マルノール氏宛の手紙に、ヨハン・シュトラウスへのオマージュのような作品を計画している旨が書かれているので、完成の1919-1920年まで、戦争を挟んで凡そ14年もの間、彼の頭の中にあったことを意味します。恐らくラヴェルは子供の頃からワルツが好きだったのでしょう。しかし、今回の戦前書かれた《高雅で感傷的なワルツ》と戦後書かれた〈ラ・ヴァルス〉との差異はどうでしょう!!

戦前と戦後のラヴェル。勿論変らなかったこともあるでしょう。しかし、作品には確実にある「変化」を認めることが出来ます。

山崎康彦さんの詩に私が作曲した〈大人は手遅れかも知れないが子供たちに伝えなければならないことがある〉に関する既掲載記事での、ラヴェルの弟子のマニュエル・ロザンタール氏が伝えるラヴェルのワルツについての言葉を、再びここに引用します。
※:楽譜販売中です。今月末までの期間限定で全曲のPDF無料閲覧&ダウンロードも可!


以下、引用。

ラヴェルは自らの一番お気に入りの子供については、自分のほうからよく話してくれたーー《ラ・ヴァルス》だ。彼によれば、ワルツのリズムこそ人間性と密接 にかかわるものだという。「なぜなら、これは悪魔のダンスだからだ。とくに悪魔は、創造者の潜在意識につきまとう。創造者は、否定の精神とは対極の存在だからね。創造者の中でも音楽家の地位が一番高いのは、ダンスの音楽を作曲できるからだ。悪魔の役割とはわれわれに芸当をさせる、つまり人間的なダンスをさせることなのだが、人間のほうも悪魔にお返しをしなければならない。悪魔とともにできる最高の芸当は、悪魔が抵抗できないようなダンスを踊ることだよ。」
 〜マニュエル・ロザンタール著 マルセル・マルナ編 伊藤制子訳『ラヴェル ーその素顔と音楽論』(春秋社刊)より

引用、以上。


戦後《クープランの墓》を書きあげ、失意のどん底から立直ったかに見えたラヴェルでしたが、モーツァルトのように作品数こそ多くはなかったけれども、一作一作に新たな要素が加わり、聴く人に衝撃的な感動を与える作品群が並ぶことになったと思います。それらの作品の根底にあるのは、醒めた意識で、自己の内面と世界そして宇宙の内的連関を「音楽として聴き出そうとする」一人立つ人間の強靭な意志を、私は感じざるを得ません。ラヴェルが自身の作品の中で〈ラ・ヴァルス〉が一番のお気に入りだったのは、きっと、この作曲によって、自分自身に打勝ったと実感出来たからではないでしょうか。勿論、敢然と「悪魔」と対峙したプロセスを経て…


♪〈ラ・ヴァルス〉♪
   バレエ&演奏

演奏:シャルル・デュトワ指揮 モントリオール交響楽団






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2016年4月 2日 (土)

オーケストラの魔術師ラヴェル 4 (再びウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団登場)- ラヴェル週間 -

オーケストラの魔術師ラヴェル 4
(再びウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団登場) - ラヴェル週間 -

ラヴェルの有名な〈亡き王女のためのパヴァーヌ〉。オリジナルはやはりピアノ曲ですが、ラヴェル自らオーケストレイションを施しています。



【おすすめYouTube】
〈亡き王女のためのパヴァーヌ〉
オリジナルピアノ独奏版
ジャン=フィリップ・コラール/ピアノ


【おすすめYouTube】
〈亡き王女のためのパヴァーヌ〉
オーケストラ版
ダニエル・バレンボイム指揮
ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団

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2016年4月 1日 (金)

オーケストラの魔術師ラヴェル 3(つづき - ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団) - ラヴェル週間 -

オーケストラの魔術師ラヴェル 3
(つづき - ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団) - ラヴェル週間 -

前回と同じ、《鏡》より。第4曲“道化師の朝の歌”:Alborada del gracioso ですが、ラヴェル自身による管弦楽化の別テイクのおすすめYouTubeをアップさせて戴きます。

演奏は、ダニエル・バレンボイム指揮のウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団です。バレンボイム氏はアルゼンチン出身のユダヤ系音楽家(現在の国籍はイスラエル)。オーケストラはイスラエルとヨルダン、レバノン、シリアなどのアラブ諸国との人たちで構成されています。
バレンボイム氏が、パレスチナ系文学者の故エドワード・サイード氏と共に「共存への架け橋」を理念に作られたオーケストラ。詳しくは是非Wikipediaをご参照下さい。

ちょっと異色の演奏(フランスのオケとちょっと違う感じ)ですが、第一バスーンの女性のソロが素晴らしい!



【おすすめYouTube】
《鏡》より“道化師の朝の歌”
オーケストラ版
ダニエル・バレンボイム指揮
ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団




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2016年3月31日 (木)

オーケストラの魔術師ラヴェル 3 - ラヴェル週間 -

オーケストラの魔術師ラヴェル 3 - ラヴェル週間 -

前回に続き、《鏡》より。第4曲“道化師の朝の歌”:Alborada del gracioso のオリジナルとラヴェル自身による管弦楽化。




【おすすめYouTube】
《鏡》より“道化師の朝の歌”
オリジナルピアノ独奏版
ジャン=イヴ・ティボーデ/ピアノ


【おすすめYouTube】
《鏡》より“道化師の朝の歌”
オーケストラ版
シャルル・デュトワ指揮 モントリオール交響楽団



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