ドビュッシー:《ペレアスとメリザンド》

2016年4月13日 (水)

詩人ラヴェル

詩人ラヴェル

ラヴェルの合唱曲《三つの歌》の第2曲“三羽の美しい天国の鳥たち”を理解した時の衝撃的な感動(既掲載記事参照)。何て言ったらいいか…? 張詰めた空気の中で突然堰を切ったように流れ落ちる涙...。霊的な「何か」に触れた瞬間。まさに鳥肌がたつような感動。このような感動が他にあるでしょうか? ・・・あります。今少なくともふたつの例を挙げることが出来ます。ひとつは宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』。そしてもうひとつはアイヌ伝承のカムイユカです。カムイユカはジャンル名ですので、実際はひとつではなく幾つもあるのですが、私が“天国の鳥”の記事の鷲谷さんへの「手紙」の中で触れた「タを踊りながら鳥になって天に昇って行った」というカッコー神のユカを挙げることが出来ます。これは田村すず子先生の許で知ったのでした。「ワテケさんの神謡」です。
このユカラについては、いずれ詳しく触れることになると思います、何故「ユカ」の「ラ」を小文字で「」と書くのかとかいうことなども含めて。


さて、作曲家ラヴェルは一流の詩人でもありました。合唱曲《三つの歌》も自作の詩でしたが、自作の詩の歌曲に〈おもちゃのクリスマス〉: Noël des Jouets (1905作)があります。



〈おもちゃのクリスマス〉

ソプラノ/エリー・アメリング
ピアノ/ダルトン・ボールドウィン


Noël des Jouets

Le troupeau verni des moutons Roule en tumulte vers la crêche Les lapins tambours, brefs et rêches, Couvrent leurs aigres mirlitons. Vierge Marie, en crinoline. Ses yeux d'émail sans cesse ouverts, En attendant Bonhomme hiver Veille Jésus qui se dodine Car, près de là, sous un sapin, Furtif, emmitoufflé dans l'ombre Du bois, Belzébuth, le chien sombre, Guette l'Enfant de sucre peint. Mais les beaux anges incassables Suspendus par des fils d'archal Du haut de l'arbuste hiémal Assurent la paix des étables. Et leur vol de clinquant vermeil Qui cliquette en bruits symétriques S'accorde au bétail mécanique Dont la voix grêle bêle: "Noël! Noël! Noël!"

         Maurice Ravel

以下、エレーヌ・ジュルダン=モランジュ著 安川加寿子・嘉乃海隆子共訳『ラヴェルと私たち』より引用させて戴きます。

おもちゃのクリスマス

エナメル塗った羊の群が
ざわめきながらうまやへ急ぐ。
兎の太鼓は鋭く強く、
羊の黄色い声を消す。

麻をまとった聖母マリアは
琺瑯(ほうろう)の目をぱっちり開けて、
「冬」のおじさん待ちうけながら
ねんねのエスさま見守っている。

なぜって、そばの樅(もみ)の木の下、
木陰に隠れ虎視眈々と、
陰険な犬ベルズェビュートが
色砂糖の御子(みこ)を狙ってるから。

けれども冬の小枝の先に
真鍮の糸でぶら下げられた
丈夫な可愛いエンゼルたちが
うまやの平和をしっかり守る。

金ぴかめっきのその羽鳴れば
機械仕掛けの動物たちの
か細い声と釣り合い、和して、
歌っているよ「クリスマスだ!」と。

引用、以上。


詩の中の「機械仕掛けの動物たち」を既掲載の動画『ラヴェルの世界』のモンフォールラモリーのラヴェルの家で見つけることが出来るでしょう。ファンタジー志向の初期のラヴェルらしい詩です。ラヴェル一流のメルヘンが機会仕掛けの動物たちの色彩と質感を伴って伝わってきます。


無伴奏合唱曲のための《三つの歌》は、前述のように余りに美しく、しかも霊的な、“三羽の美しい天国の鳥たち”をまん中に、両脇の2曲は、まるで異なる調子なのです。
第1曲“ニコレット”は、中世のルネッサンスのシャンソン風。皮肉たっぷりの内容。
そして第3曲“ロンド”は、これまたラヴェルのファンタジー!



《三つの歌》:Trois Chansons
1 “ニコレット” Nicolette
2 “三羽の美しい天国の鳥たち” Trois beaux oiseaux du Paradise
3 “ロンド” Rondes
1980 NDSU Concert Choir-Edwin Fissinger


1 Nicolette

Nicolette, à la vesprée,
S'allait promener au pré,
Cueillir la pâquerette,
la jonquille et la muguet,
Toute sautillante, toute guillerette,
Lorgnant ci, là de tous les côtés.

Rencontra vieux loup grognant,
Tout hérissé, l'œil brillant;
Hé là! ma Nicolette,
viens tu pas chez Mère Grand?
A perte d'haleine, s'enfuit Nicolette,
Laissant là cornette et socques blancs.

Rencontra page joli,
Chausses bleues et pourpoint gris,
"Hé là! ma Nicolette,
veux tu pas d'un doux ami?
Sage, s'en retourna, très lentement,
le cœur bien marri.

Rencontra seigneur chenu,
Tors, laid, puant et ventru
"Hé là! ma Nicolette,
veux tu pas tous ces écus?
Vite fut en ses bras, bonne Nicolette
Jamais au pré n'est plus revenue.



2 Trois beaux oiseaux du Paradis

Trois beaux oiseaux du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Trois beaux oiseaux du Paradis
Ont passé par ici.

Le premier était plus bleu que ciel,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Le second était couleur de neige,
Le troisième rouge vermeil.

"Beaux oiselets du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Beaux oiselets du Paradis,
Qu'apportez par ici?"

"J'apporte un regard couleur d'azur.
(Ton ami z'il est à la guerre)"
"Et moi, sur beau front couleur de neige,
Un baiser dois mettre, encore plus pur"

"Oiseau vermeil du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Oiseau vermeil du Paradis,
Que portez-vous ainsi?"

"Un joli cœur tout cramoisi ...
(Ton ami z'il est à la guerre)"
"Ah! je sens mon cœur qui froidit ...
Emportez-le aussi".



3 Rondes

Les vieilles:
 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 Jeunes filles, n'allez pas au bois:
 Il y a plein de satyres,
 de centaures, de malins sorciers,
 Des farfadets et des incubes,
 Des ogres, des lutins,
 Des faunes, des follets, des lamies,
 Diables, diablots, diablotins,
 Des chèvre-pieds, des gnomes,
 des démons,
 Des loups-garous, des elfes,
 des myrmidons,
 Des enchanteurs es des mages,
 des stryges, des sylphes,
 des moines-bourus,
 des cyclopes, des djinns,
 gobelins, korrigans,
 nécromants, kobolds ...
 Ah!
 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 N'allez pas au bois.

Les vieux:
 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 Jeunes garçons, n'allez pas au bois:
 Il y a plein de faunesses,
 de bacchantes et de males fées,
 garcons, n'allez pas au bois.

 Des satyresses,
 des ogresses,
 Et des babaiagas,
 Des centauresses et des diablesses,
 Goules sortant du sabbat,
 Des farfadettes et des démones,
 Des larves, des nymphes,
 des myrmidones,
 Il y a plein de démones,
 D'hamadryades, dryades,
 naiades,
 ménades, thyades,
 follettes, lémures,
 gnomides, succubes,
 gorgones, gobelines ...
 N'allez pas au bois d'Ormonde.

Les filles / Les garcons:
 N'irons plus au bois d'Ormonde,
 Hélas! plus jamais n'irons au bois.

 Il n'y a plus de satyres,
 plus de nymphes ni de males fées.
 Plus de farfadets, plus d'incubes,
 Plus d'ogres, de lutins,
 Plus d'ogresses,
 De faunes, de follets, de lamies,
 Diables, diablots, diablotins,
 De satyresses, non.
 De chèvre-pieds, de gnomes,
 de démons,
 Plus de faunesses, non!
 De loups-garous, ni d'elfes,
 de myrmidons
 Plus d'enchanteurs ni de mages,
 de stryges, de sylphes,
 de moines-bourus,
 De centauresses, de naiades,
 de thyades,
 Ni de ménades, d'hamadryades,
 dryades,
 folletes, lémures, gnomides, succubes, gorgones, gobelines,
 de cyclopes, de djinns, de diabloteaux, d'éfrits, d'aegypans,
 de sylvains, gobelins, korrigans, nécromans, kobolds ...
 Ah!

 N'allez pas au bois d'Ormonde,
 N'allez pas au bois.

 Les malavisées vielles,
 Les malavisés vieux
 les ont effarouchés -- Ah!

      Maurice Ravel



以下、前述同書より部分引用。
(第1曲、第3曲の歌詞の訳詞は、残念ながら全部は掲載出来ません。)


1 ニコレット(部分)

白髪で腰曲りの、醜い、臭い、
腹のつき出ただんなに出会った
いよう! ニコレット
このお金全部ほしくないかね?


2 三羽の美しい天国の鳥たち
(これは既掲載の“三羽の美しい天国の鳥たち”の齊藤佐智江さん訳をご覧ください)


3 ロンド(部分)

オルモンドの森へ行ってはいけない
若い娘たちよ、森へ行ってはいけない
森はサテュロスや、半神半馬の怪物や、意地の悪い魔法使いでいっぱいだ、
妖精、夢魔、人食い鬼、化け物、
牧神、いたずら妖精、蛇身の女神、大悪魔、中悪魔、小悪魔、
山羊脚の神、地の神、悪霊、人狼、
風・火・地の精、一寸法師、妖術師、魔術師、
吸血鬼、空気の精、幽鬼、一つ目の巨人、鬼神、
小鬼、悪鬼、死霊使い、怨霊……ああ!


部分引用、以上。



因にファンタジー・リリック《子供と魔法》はコレットの詩によるオペラですが、元々はコレットの娘のためのバレエとして書かれた台本を、ラヴェルがオペラ化を持掛けて、依頼人のジャック・ルーシェがふたりの間に調整役として入り、かなりの部分が、ラヴェルのアイデアであるらしいのです。コレットは寛容で、喧嘩になることもなくハッピーにことは進んだようです。ドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》での原作者メーテルランクとドビュッシーとのケースや、タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』での『ソラリスの陽の下に』の原作者スタニスワフ・レムとタルコフスキーとのケースなどの、険悪極まりない諍いにはならなかったそうで、良かったですね...。





.....

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2016年3月21日 (月)

ラヴェルの遺言?! - ラヴェル週間 -

ラヴェルの遺言?! - ラヴェル週間 -

今日はラヴェルが第一世界大戦に志願兵として戦地に赴くに当って「遺作のつもりで作曲された」とされる《三重奏曲》:Trio について触れたい思いましたが、その本題に入る前に、前回触れました〈ラ・ヴァルス〉について、もう少し書いて置こうと思います。

♪〈ラ・ヴァルス〉♪


ラヴェルを知る書として私のおすすめの一冊に、これまでにも何度かそこから引用もさせて戴きましたヴァイオリニストのエレーヌ・ジュルダン=モランジュ女史の『ラヴェルと私たち』があります。

以下、『ラヴェルと私たち』より引用太字は高橋が追記)

(《ラ・ヴァルス》について)ラヴェルは語っている「私はこの曲をウィンナ・ワルツの大詰めのようなものとして頭に描いた。それは私の中で、幻想的で宿命的な、渦巻く水流の印象と混り合っている。私はこの〈ラ・ヴァルス〉を1855年ごろの皇帝の宮廷という背景のなかに置いた」(原注:自叙伝スケッチ) 〜p.209

「渦巻く黒雲の間の裂目を通して、ワルツを踊る大勢のカップルがかいま見られる。雲は少しずつ散っていき、旋回する人の群がいっぱいにあふれた大広間が認められる」(原注:プログラム梗概)
 
そしてラヴェルは、この「旋回」のなか、この組織的な渦巻きのなかで、その眩暈の主としてとどまっている。「夢、夢ではあるが、左右均整の妙をきわめ、すべてが行為であり脈略である夢!……そもそもどんないかめしい法則の数々がここで夢を見ているのか。自分ら法則が明瞭な顔の形となった夢、現実の存在と非現実の存在と叡知によって知りうる存在とがミューズの力に従って、いかに溶けあい一つになるかを、人間どもに示そうとする意図において自分ら法則がすべて一致しているという夢を」
(原注:ポール・ヴァレリー『魂と踊り』伊吹武彦訳)〜p.212

『隠れ家、隠れ家、おお、私の隠れ家、おお、「渦巻よ!」
 おお、動きよ、私はお前のなかにいた。すべての物のそとに!』(原注:同書)〜p.213

引用、以上。


●反体制ラヴェル

ジュルダン=モランジュ女史はポール・ヴァレリーを引用して〈ラ・ヴァルス〉の本質を見事に示唆しています。意味深な言葉であると思いますが、これを間違ってもラヴェルの権力志向などと把(とら)えてはならないでしょう。ラヴェルの素顔について知るには、既述の『ラヴェルと私たち』と共に、マニュエル・ロザンタール氏の証言が纏められた『ラヴェル:その素顔と音楽論』がおすすめです。ラヴェルは近代市民としての感覚を持った作曲家でした。何よりも公平であることを重んじ、権力の齎す不条理に対しては公に抗議することも辞さない人であったことは押えておきましょう。第一次大戦時志願兵だったとしても戦争を肯定していた訳ではありませんでしたし、戦中、音楽家の権威スジ(サン=サーンスなど)が持ちかけたドイツ音楽排斥運動(後註参照されたし)にもきっぱりと背を向け、戦後は国からのレジョン・ドヌール勲章を突っぱねた気骨の人でした。

後註:既述の『ラヴェル:その素顔と作品論』の付録「戦地からの手紙」に詳しく、フランス国内においてドイツ音楽を禁止する旨の声明文「フランス音楽を擁護するための国民連合の声明文ーーわが国におけるフランス音楽の保護と外国でのフランス音楽の普及をめざして」の全文と、それとは全く異なる考えのため全く賛同できないという反論のラヴェルの手紙全文が掲載されています。声明文は、今の私たちから見ても酷い内容なのですが、その署名欄には次の氏名が連ねられています。名誉会長として、カミーユ・サン=サーンス、テオドール・デュボア、ギュスターヴ・シャルパンティエ。委員として、ヴァンサン・ダンディ、ザヴィエ・ルルー、シャルル・ルコック、ポール・ムニエ、ルシアン・ミルヴォア、代議士一同、芸術関係の国会議員グループの代表一同。書記として、ジャン・プエイユ。発起人代表として、シャルル・タンルック。
しかし、サン=サーンスについてラヴェルは、一貫して敬意を表していて、彼のオーケストレイションについても「建築学的に堅牢に作られている」と高評価しています。


本題に入ります。そんなラヴェルが、第一次大戦直前に「遺作のつもりで書いた」と言われる《三重奏曲》:Trio です。全4楽章から成りますが、その内の第三楽章“パッサカリア”:Passacaille…

♪III “Passacaille” de 《Trio》♪


全曲はこちらで…
♪《Trio》♪



〈ラ・ヴァルス〉:La Valse に話は戻りますが… ラヴェルの言う「私はこの〈ラ・ヴァルス〉を1855年ごろの皇帝の宮廷という背景のなかに置いた」と言う「1855年ごろの皇帝の宮廷」とは、オーストリア皇后としてエリーザベトが即位した(1854年4月)時期と重なります。『ラヴェルと私たち』の中でジュルダン=モランジュ女史は「ラヴェルは昔のウィーンが特に大好きであった。それは、あの政治体制が軽佻浮薄でありながら、そのなかに宮廷風な礼儀と節度を維持していたからである」とも書いているし、ラヴェル自身「ヨハン・シュトラウスを讃える」とも言っているのですが、実際〈ラ・ヴァルス〉を聴いた後で、果たしてそうした言葉を額縁通りに受取ることが出来るでしょうか?

本ブログ既掲載の《子供と魔法》の記事の時にも書きました、「この作品はまるで私たち現代人のために書かれた作品のようだ」と。私には〈ラ・ヴァルス〉も(残念ながら)極めて現代的主題として解釈されるのです。殊に今に至っては、世界の支配と搾取の構造、その全貌が、世界の誰の前にも、明らかになり得る時代が到来しているのです。
ドビュッシーがオペラ《ペレアスとメリザンド》において、崩壊に向う王制と共に、極めて人間性豊かに(多分に神話的要素に接近しつつも)新しい市民感覚の止揚に成功し得たように、それ以降の新しい潮流の中にラヴェルもまた独自なスタイルで存在していたという訳です。

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♪ラヴェルのファンタジー・リリック《子供と魔法》

 嘗てびわ湖ホールさんの委嘱により室内オーケストラ用に編曲しましたことから、このブログ「風の耳」にてラヴェルのオペラ《子供と魔法》の内容 (コレットの台本和訳)の一部をご紹介しましたが、そこにオーディオ(MP3TUBE)を添え、且つその箇所に当る私の編曲版楽譜PDFを公開しました。 PDFは春分の日までとの既述でしたが、一日延長いたします(春分の日の振替休日の21日月曜日まで)。

台本及び楽譜PDFと併せ試聴が出来るページ  

2013年5月19日(日)
ラヴェル:《子供と魔法》「羊飼いさんたち、さようなら」

2013年5月1日(水)
ラヴェル:《子供と魔法》「貴女は薔薇の心」

2013年5月29日(水)
ラヴェル:《子供と魔法》「嗚呼、おまえに会えてなんて嬉しいのだろう、庭よ!」

尚、音源はびわ湖ホールの館脇昭さんより戴きました金沢公演ライヴ録音のCDよりの抜粋です。館脇さん並びに関係者の皆さんに感謝申上げます。

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2015年2月27日 (金)

《ペレアスとメリザンド》その2 - つづき(その1) -

《ペレアスとメリザンド》その2 のつづき。



《ペレアスとメリザンド》の舞台


●登場人物

  1 ペレアス:王アルケルの孫。ゴローの異父弟。
  2 メリザンド:海から森に迷い込んだ謎の女性。ゴローに拾われ後妻となる。
  3 ゴロー:アルモンド(架空の国)の崩壊途上にある王家の王子。先妻に先発たれている。その二人の子に幼いイニョルドがいる。
  4 アルケル:アルモンドの老いた盲目の国王。城主。
  5 ジュヌヴィエーヴ:ゴローとペレアスの母。
  6 イニョルド:ゴローの先発たれた先妻との間の幼い息子。
  7 侍医:終幕でメリザンドを診る医者。
  8 男の召使いたち(台詞はなく登場するだけ)
  9 女の召使いたち(台詞はなく登場するだけ)
10 三人の老貧者(台詞はなく舞台上に横たわっているだけ)
11 水夫たちの声(海から聴こえてくる声だけで登場はしない。舞台裏に配置された合唱によって表される) 
12 羊飼い
13 羊の群(むれ)
14 数羽の鳩:メリザンドが飼っていたと想われる鳩。
以下は実際には登場せず登場人物の言葉の中に現れる人物
15 馬:実際には登場せずゴローの話の中に出てくるゴローの馬。
16 ウルスラ姫:アルケルがゴローとの政略結婚を考えていたと想われる他国の王女。
17 ペレアスの病床の親友マルセリュス(ペレアスの台詞の中に出てくる)
18 ペレアスの病床の実父(アルケルの台詞の中に出てくる)


●場所

  1 城を取囲む深い森(その森の中に自然の泉がある)
  2 城の広間
  3 城の前(海が見渡せる)
  4 城の一室(寝台がある。ゴローの寝室)
  5 城の一室(メリザンドが臨終を迎える寝室。大窓を開けると海が見渡せる。もしかしたら4と同じ部屋なのかも...)
  6 城の塔(最上階にメリザンドのものと想われる寝室がある。ひょっとしたら元はジュヌヴィエーヴの部屋で、それをメリザンドに譲ったのかも...)
  7 城の地下窟(死臭漂う恐ろしげな底なしの底と岩肌の壁)
  8 城の地下窟の出口のテラス(そこから城の塔と海岸とが見える)
  9 城外の庭園(「盲人の泉」と呼ばれる深い泉がある)
10 城外の築山(大きな石があり、森が見える)
11 海辺の洞窟(「青の洞窟」っぽい)の前
この他にジュヌヴィエーヴが読上げる手紙の中に出てくる二つの場所として
12 海に面した城の塔
13 船橋

つづく

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《ペレアスとメリザンド》その2

前記事からのつづきです。

先の演奏会形式での上演の随想からは離れて作品そのものについて書いて行こうと思います。

「お聴きなさい。それで充分です」

と、ドビュッシーの言葉を引用し、このオペラに対する感動を表すには「沈黙こそが一番相応しいのではないか」と書きましたが、私は自分のオペラのために、少なくともドビュッシーのこのオペラと、ラヴェルの二作(私が室内オーケストラ版を編曲した《子供と魔法》については既に何度かこのブログに書きましたが...)と、タルコフスキー演出によるムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》についてだけは書いておきたいと思いました。今後の人生に余裕があれば、日本の(大きな意味で私の恩師)のオペラ、それにレスピーギの《沈鐘》とプッチーニの《ラ・ボエーム》、ヴェルディの《椿姫》についても出来たら書きたいと思ってます。(※)


《ペレアスとメリザンド》その2

私が子供の時に初めてこのオペラに接した時、いったいこのオペラの何に魅かれたのか? それ以前に既にドビュッシーの他の音楽には魅了されていたので勿論それは「音楽に」とも言えるのですが、恐らくこのオペラの世界(小宇宙)丸ごとを感じ取っていてそれに素直に反応していたのでしょう。それでも今思うに取分け子供心をひきつけたのは、このオペラの、時空のトポロジカルな構造 で あったのかも知れません。
海の近くの丘に聳える古城や海岸の洞窟や城の地下窟や庭園の泉や城を取囲む深い森やその森の泉など、その地勢や城の構造や自然音や空気感、それも「城の地下窟と海岸の洞窟と泉の深い底とはきっと繋がっているに違いない」というような勝手な想像に何かわくわくするものを感じて胸をときめかしていたりしていたのでしょう。それは子供心が貝殻や衣蛸に胸をときめかせるようなものです。(馬鹿げたことと思われるかも知れませんが、実は芸術表現にとってこうした要素がいかに重要であるかということを先の演奏会形式の上演に接して以来私は再認識させられているのです。)それに空間のことのみならず時間も重要であることは言うまでもなく、前述の「時空のトポロジカルな構造」は、簡単にそれを「運命の糸」と言い換えても良いのでしょう。
このシリーズの最初
にも書きましたドビュッシーの「魅惑」、その秘密を解明す上でもこうした要素を無視することはできません。何故ならこうしたことはドビュッシーの音楽の「作り」や「オーケストレーション」を語る上でも無視できないことであるのみならず、実はこうしたことが神話的精神世界と絡んでくるところに芸術表現の奥深さがあると思えるからです。

それではこれからドビュッシー芸術の「魅惑」を紐解いて行くために まず、必要アイテムを整理しておきますね。「何それ?」と思われるかも知れませんが、それは後々の記事に役立つものとなるはずです。ページを改めて更新します。

※ 私が今書いているオペラが音楽としてこれらのオペラのような作品であるという意味ではありません。全く違う音楽になります。


つづく





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2015年2月10日 (火)

《ペレアスとメリザンド》その1 - つづき -

《ペレアスとメリザンド》その1 のつづきです。

一昨日の日曜日の夜、マエストロ・デュトワ指揮によるN響定期の《ペレアスとメリザンド》演奏会形式による上演を放送で視聴された方もいらっしゃるかと思います。
デュトワ氏によるこの作品に対する深い理解と愛情に支えられた素晴らしい記録でした。

(以下、引用)

 音楽の感動を言葉で伝えることは難しい。音楽は水に映る月。「掬っても掬っても(指の間から)こぼれおちる月」。でも、そこに愛がある時、そのとらえ難い月にそっと寄り添うように言葉を巡らせる時、言葉は不可視の領域の視えない優しい指になる。

(引用、以上)

以上は、以前書いたブログ記事からの引用です。「こぼれおちる月」の解題の一部です。
私は、先の演奏会の随想からは離れて、この音楽史上の奇蹟のような《ペレアスとメリザンド》について書きたいと思っていましたが、今私は.....

(以下、引用)

 お聴きなさい。それで充分です

(引用、以上)

.....というドビュッシーの言葉を想い出しています。
この感動に対する答えは沈黙こそが相応しいのではないか? そんな想いに駆られています。

つづく

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2015年1月 9日 (金)

《ペレアスとメリザンド》その1

前回につづきここでは《ペレアス・・・》について。



●随想《ペレアスとメリザンド》演奏会形式


先月7日、友人が仕事の関係で行かれなくなったということで譲り受けたチケット(正確にはチケット引換券=葉書)を手に、久し振りにNHKホールに出掛けました。

このNHKホールでのオペラ体験は1993年のキーロフ(現 マリインスキー)オペラ来日公演でのタルコフスキー演出による《ボリス・ゴドノフ》以来なので、なんと! 21年ぶり(「久し振り」なんてどころじゃない)...。と言っても、今回のオペラは演奏会形式でしたが、私は「下手な舞台よりも演奏会形式!」と常日頃から思っていましたし、しかも今回マエストロ・デュトワ曰く、このオペラは「むしろ演奏会形式がふさわしい」(プログラムに掲載)というだけあって ―かどうかは別としても、確かに作品の本質がくっきりと明瞭に伝わる上演であったことには違いありません。

こうしたオペラが誕生し得たことは人類史上の奇蹟ではないだろうか? と思えるほど、この作品は美しい。そしてその美しさは「死」によって輝いている。こう言うとデカダンスと思われるかも知れませんが私はそうは思わない、ドビュッシーは全てを見通す心眼を具えた醒めた芸術家でした。或いはボードレールの「万物照応」を体現した作曲家と言えるでしょうか。

「自然」はひとつの宮殿、そこに生ある柱、
    時おり、捉えにくい言葉をかたり、
    行く人は踏み分ける象徴の森、
    森の親しげな眼差しに送られながら。

    夜のように光明のように涯(はてし)もない
  幽明の深い合一のうちに
  長いこだまの遠くから溶け合うように、
    匂と色と響きとは、かたみに歌い。

    この匂たち、少年の肌に似て爽かに、
    牧笛のように涼しく、牧場のように緑に、
    ―その他に、腐敗した、豊かな、勝ちほこる

    匂にも、無限のものの静かなひろがり、
    龍涎(りゅうぜん)、麝香(じゃこう)、沈(じん)、薫香(くんこう)にくゆり、
    精神と感覚との熱狂をかなでる。

  ~ボードレール「万物照応」(福永武彦訳)


いろいろ述べる前に、このコンサートのことメモっておきます。
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N響第1796回定期公演
日時▶2014年12月7日(日) 15時開演(開場は14時)
会場▶NHKホール

指揮:シャルル・デュトワ

ペレアス:ステファーヌ・デグー(バリトン)
メリザンド:カレン・ヴルチ(ソプラノ)
ゴロー:ヴァンサン・ル・テクシエ(バスバリトン)
アルケル:フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ(バス)
ジュヌヴィエーヴ:ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
イニョルド:カトゥーナ・ガデリア(ソプラノ)
医師:デーヴィッド・ウィルソン・ジョンソン(バリトン)
羊飼い:浅井隆仁(バリトン)

合唱:東京音楽大学(合唱指揮/阿部純)
コンサートマスター:篠崎史紀

メリザンド役のヴルチさんは私の席からはお顔まで鮮明に見える距離ではなかったのですが、聴いての全体的印象では儚げなメリザンド役にぴったりの好演でした。他の方々もオーケストラも素晴らしく、特に指揮のデュトワ氏の音楽の運びや色彩感はドビュッシー芸術の神髄を伝えるに充分であったと思います。

つづく


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