随想「ぼっくすおふぃす・朗読さろん Vol.6」
昨日ご案内させて頂きました神品正子さんの「ぼっくすおふぃす・朗読さろん Vol.6 神品友子没後10年〜ドイツ現代童話を聴く夕べ」の随想です。
まずは、当日プログラムを以下に。
プログラム
★お話
神品芳夫★ねこのアイウエオ Zupp
ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー/作
神品友子/訳(晶文社)朗読/越前屋加代 佐々木優子 青木勇二
休憩(10分)
★R.シュトラウス(フバイ編曲):モルゲン!〜「4つの歌」op.27より第4番
★ドルドラ:思い出(スーヴェニール)
★クルト・ヴァイル(クリティアン編曲):モリタート(マック・ザ・ナイフ)〜「三文オペラ」より
★ポリディーニ(クライスラー編曲):踊る人形
ヴァイオリン/油井ユリ子 ピアノ/本間有紀
★お月さまのかお Das Mondogesicht
ゲルダ・マリーシャイルド/作
神品友子/訳(ほるぷ出版)
朗読/三好美智子
プログラム、以上。
今回は、神品さんのお母さんの没後10年を記念した会。
はじめに、お父さんの神品芳夫先生のお話。「学問的な話は抜きで、夫として故人を偲びたい」と前置きされた上で、まだ女性が学問のため海外に行くことさえもが憚られるような古い空気が残っていたご結婚当時のご苦労話などと共に、文学にも三人のお子さんを育てることにも力を惜しまなかった神品友子先生のご生前が偲ばれました。
続いて作者と作品について簡潔なご解説がありました。
「ねこのアイウエオ」※の作者ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー氏は、今も精力的に活躍されているドイツの作家・詩人・批評家・翻訳家で、この「ねこのアイウエオ」にも、虚偽に充ちた大人社会へのチクリとした批判が込められていること、そして、私が特に共感を持って心に止めたのは「子供の心でなければ社会変革は為し得ない」というお言葉でした。確かに日本の今を見てもそう思います。
※ 原題は“Zupp”ですが、「ねこのアイウエオ」という日本語のネーミングは神品芳夫先生のアイデアということでした。
一方「お月さまのかお」の作者は「ねこのアイウエオ」の作者に比べるとあまり有名ではないそうですが、この作品は、エンツェンスベルガー氏とは対称的に、社会的思想的なことはなく、ひたすら叙情的な作品であると語られました。私もそう思っていました。
この絵本のお話は、マリオンという少女が絵に描いた「月のこども」が、絵から抜け出して、家から出てあちこち冒険を始めるというお話。(以下、ある程度内容を明かしてしまいますので絵本を読まれることを楽しみにされている方は跳ばしてください)
月のこどもはいろいろな人たちや動物たちとの交流を経た後、「本物の月」と肩を並べることになるのですが、月のこどもは星々を掃除する「星みがき」によって、さっと拭き消されてしまうのです。しかし、それを後悔した星みがきはマリオンのもとへ飛んで行って、雑巾の皺と皺の間に隠れていた月のこどもを紙の上に甦らすのでした。そうして、「それで 月のこどもは?/また マリオンのうちへ かえってきたのです/月のこどもは おおよろこびで 光りました/なにもかも うまくいって ほんとによかったですね」と、ハッピーエンドで終わります。
私は4年前のぼっくすおふぃす・朗読さろんVol.5で、この「お月さまのかお」に作曲させて頂いたのでしたが、エンディングでは何故かホロッとなってしまうほど、いまだに非常に好きな作品となっています。
後半のはじめに神品さんの妹さんによるヴァイオリン演奏がありました。曲目をこの日のために考えに考えた上での演奏と言うことでした。ピアニストはお母さんのこともご存知の気心の知れたお友達ということでした。妹さんはとても明るい方で、演奏の後での「幾つか事故がありましたが…」という言い訳もご愛嬌の内に、ご自身による解説と相まって、楽しい一時を作っていました。
最初に、神品先生は、「この会は私が提案したことではなく、娘たちが自主的に企画してくれたこと」とお断りなさってましたが、実にアットホームな暖かい雰囲気に包まれて、ドイツ現代童話を味わうことのできた会でした。
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