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2016年3月26日 (土)

“三羽の美しい天国の鳥たち” - ラヴェル週間 -

高橋喜治編曲によるラヴェルの《子供と魔法》の楽譜PDF無料配信は5日前の21日に終了しましたが、もう少し「ラヴェル週間」は続けます。



“三羽の美しい天国の鳥たち” 
- ラヴェル週間 -


●「志願兵ラヴェル」について

志願だろうが何だろうが、戦争は、それを画策し実現に向け執行した者以外の者は人間以外の動物・自然も含めて、すべて被害者です。とは言え、社会的な同調圧力のようなある種の「空気」に突き動かれされてしまうということもあります。支配者による情報操作(世論誘導)と洗脳によって一般の人たちが動員されてしまうのです。その中のある人たちは支配者の無意識的な共犯者ということにもなりましょう。しかし、想像してみてください。極端に選択肢が狭められ、出征か否かの二者択一を究極的に迫られてしまうような情況を!

私は戦争を完全否定する者ですが、私たちは、そうした過去の時代の情況を、その実相を、冷静に見極める必要があると思います。

1915年、40歳の時、ラヴェルは入隊を自ら志願したのですが、それに関して私は、2006年、室内アンサンブルのBouquet des Tonsのために書下した委嘱新作《ラヴェルの墓》より第一楽章“天国の鳥”と〈クラヴサンのための前奏曲〉(.....木洩れ日)、委嘱編曲 ラヴェルの組曲《クープランの墓》(オリジナルピアノ版全曲)、それにラヴェルの合唱曲《三つの歌》より第二曲“三羽の美しい天国の鳥たち”の編曲が発表されたコンサートの当日プログラムに寄せたノートから、まず、“三羽の美しい天国の鳥たち”のプログラムノートを転載させて戴こうと思います。

以下、引用。(一箇所だけ「、」(点)を訂正追記しました)


モーリス・ラヴェル “三羽の美しい天国の鳥たち”

 

 1914年から1918年にかけて第一次世界大戦が興りましたが、ラヴェルは戦時色が徐々に強まって来る中で、ピアノ三重奏のための「三重奏曲」を遺作のつもりで書き上げました(1914年)。この時ラヴェルは入隊を決意していたのです、既に兵役免除であったにも関わらず。ところが、志願兵として兵役検査を受けますが、体重が足りない 身長が足りない 虚弱体質である などのいろいろな理由でなかなか入隊を許可されません。あげくの果てに友人である大臣ポール・パンルヴェに曲を献呈して、そのコネでなんとか空軍に(飛行士ならば体重が軽くてもOKだろうという思い込みから)入隊を許可されるように謀るのでした。その曲がこの無伴奏混声合唱のための「三つの歌」第2曲の “三羽の美しい天国の鳥たち”(1915年2月完成)なのです。詩はラヴェル自身が書いています。

 結局のところ空軍は叶わず、やっとのことで1915年3月14日にトラック運転手として入隊し、1917年6月の仮除隊まで戦地に赴くこととなったのです。

 私はこの執拗なまでの志願に対して疑問を感じていたのですが、今回、フルートの齊藤佐智江さんにお願いしてラヴェルが書いたこの曲の詩を新たに訳して頂いたのですが、それを読んで一瞬にして(一瞬でしたが)その謎が解けたような気がしました。



三羽の美しい天国の鳥たち

 

三羽の美しい天国の鳥たち

  (私の大切な友は、戦場にひとり発ち)

ここを通って行った、三羽の美しい天国の鳥たち


一羽は、空よりも青く

  (私の大切な友は、戦場に赴く)

二羽めは、雪のように白く

三羽めは、あざやかに赤く


「美しい天国の小鳥たち

     (私の大切な友は戦場へ発ち) 

 美しい天国の小鳥たち 

 ここから何を運んで行くの?」


「私は紺碧のまなざしを届けます

     (戦場に行ったのですね、君の大切な友)」

「雪のように美しい額に、私はいまもなお清らかなキスをしなければ...

  天国の赤い鳥

    (私の大切な友は、戦地にひとり)

  天国の赤い鳥  何を運んで行くの?」


「深紅の美しい心

     (君の大切な友は戦場に...)」

「ああ! 私の心が凍てついてゆく

   どうか持っていっておくれ、私のこの心も」


~「Bouquet des Tons Vol.18」当日プログラムノートから 061108
  参考文献

 

引用、以上。© Copyright by Sachie Saitoh


この時はBouquet des Tonsのフランス語が堪能な齊藤さんにラヴェルの詩の訳をお願いしたのでしたが、以下に原語も掲載して置きます。



Trois beaux oiseaux du Paradis


Trois beaux oiseaux du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Trois beaux oiseaux du Paradis
Ont passé par ici.

Le premier était plus bleu que ciel,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Le second était couleur de neige,
Le troisième rouge vermeil.

"Beaux oiselets du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Beaux oiselets du Paradis,
Qu'apportez par ici?"

"J'apporte un regard couleur d'azur.
(Ton ami z'il est à la guerre)"
"Et moi, sur beau front couleur de neige,
Un baiser dois mettre, encore plus pur"

"Oiseau vermeil du Paradis,
(Mon ami z'il est à la guerre)
Oiseau vermeil du Paradis,
Que portez-vous ainsi?"

"Un joli cœur tout cramoisi ...
(Ton ami z'il est à la guerre)"
"Ah! je sens mon cœur qui froidit ...
Emportez-le aussi".


二連目では、bleu(青) neige(白) rouge(赤) ー と、フランス国旗の三色で愛国心をちらつかせているようにも思えますが(※)、肝腎なのは、「大切な友」がひとり戦地に在ることへの切々な想いが歌われていることでしょう。これはラヴェルの心の真実を歌っているのでしょう。

※:「愛国心」と言うより、ラヴェルは「自由・平等・博愛」をモットーとして尊重していたようです。

実はこの時、彼の弟エドワールをはじめ、彼の友人たちは、既に出征していたのでした。

ラヴェルはと言えば、彼は小柄でしかも虚弱体質、前述のように兵役免除ですらあったのですが、何とか入隊するべく奮闘した痛々しくなるほどの姿が、様々な記録からは浮かび上がって来るばかりなのです。

彼は、愛する弟、それに友人たちを差置いて、自分が「兵役免除」という優遇された立場に身を置くことを自らに許せなかったのです。


【おすすめYouTube】
ラヴェル作詩作曲《三つの歌》より第二曲
♪“三羽の美しい天国の鳥たち”♪
(オリジナル)




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