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2013年5月

2013年5月29日 (水)

「嗚呼、おまえに会えてなんて嬉しいのだろう、庭よ!」〜《子どもと魔法》【限定公開MP3TUBE追加】

既掲載記事1, 2に引続き《子どもと魔法》の内容をもう少しご紹介したいと思います。ここに掲げることのできるのは要するに「台本」なのですが、これは私が子供の時のデュランのボーカル・スコアへの鉛筆による「書込み」に基づくものなのです(1 参照)

樹、花、ひどく小さい緑色の池、木蔦の巻きついた太い樹がそこにある。昆虫、雨蛙、蟇蛙の音楽、梟の笑い声、そよ風と夜鶯の囁きが聴こえる。

子ども:あー、おまえに会えて何て嬉しいのだろう、庭よ!
(悲痛に)ああー!
子ども:どうしたんだい?
樹:私の傷だ! 私の傷だ!
子ども:何の傷だい?
樹:昨日おまえがナイフでつけた傷だ
  あー! まだ血が出ている
他のたくさんの樹々(唸り、揺れながら)私たちの傷だ! 私たちの傷だ!
  まだ新しい、そしてまだ血が出ている
  おー、いたずらっ子め!

子どもは気の毒になって大きな木の皮に頬ずりする。一匹の蜻蛉が羽音をたてて通りすぎて見えなくなる。そして飛びもどり、また通り過ぎる。他の蜻蛉がそれに続く。一匹の夾竹桃色の雀蛾も同じように飛んでくる。他の雀蛾たちも他の蜻蛉たちも....。
蜻蛉は飛びながら歌う。


蜻蛉:おまえはどこだ?
   わたしはおまえを探している...
   捕虫網が...
   彼がおまえを捕えたんだ...
   おー、おまえよ!
   細長くか弱い親しいおまえよ!
   おまえのトルコ玉、トパーズ
   おまえを愛する空はわたしほど悲しみはしない...

   ただひとりで、ただひとりで、
   わたしは悩む...
   わたしはおまえを探す...
   あいつを返してくれ!
   彼女はどこだ?
   わたしの仲間を、
   彼女を返してくれ!
   返せ! 返せ!
   わたしの恋人を返せ!

子ども:それはできない! それはできない!
蜻蛉(しつっこく)彼女はどこだ?
子ども:それはできない...
  (横を向いて)ぼくがつかまえた蜻蛉は針に刺して壁に留めてある... ああ!(こわがって)

蝙蝠のロンド(空から別の声)
蝙蝠:
彼女を返せ! Tsk, tsk... 返してくれ! Tsk...
   わたしの恋人... 蝙蝠よ...
   おまえは知っているだろう?
子ども(頭を垂れて):知ってる!
蝙蝠(飛びながら)大きな棒が... Tsk, tsk... 彼女を追っかけた...
          昨日の夕方... Tsk...
          おまえが勝った... そして小さい彼女は死んだ...
          おまえの足もとで...
子ども:ゆるして!
蝙蝠:巣いっぱいに... 小さい小虫... 母親を亡くした。
   その子たちを養ってやらなくちゃならない...
子ども:おかあさんがいないんだ...
蝙蝠:だからおれたちは Tsk, tsk... おれたちは飛んでいくんだ... 餌を探すんだ... はぐるぐる飛び廻るんだ! おれたちは飛んでいる餌をパクリとくわえ採るんだ。それはみんなおまえが悪いからだ!

下では小さい雨蛙が小さい池のふちに両手をかけてはい上る。もう一匹も同じように...そして続いてもう一匹もと。そして、池のふちは押し合いながらケロケロ鳴く雨蛙たちで囲まれる。

彼らはふちから離れ、雨蛙流に戯れ始める。

……雨蛙のダンス……

彼らのうちの一匹が子栗鼠に手をかける。


栗鼠(無愛想に、蛙に)逃げろよ、バカ! 籠は? 籠は?
雨蛙:ケケケケセクサ?
栗鼠(低い二本の枝の股で栗鼠流に咳をしながら)牢屋だ。ええと、ええと...   牢屋だ。 二つの格子の間にわたしたちを刺す鉄棒がある。
   ええと、ええと...
   ぼくは逃げることができた。でもおまえの湿った四本の手足のようにはいかない。
雨蛙:おまえはななななんと言うのだ?
   わたしは「籠」なんてもんは知らんよ。
   でも人間が投げてくれる蠅なら知ってるよ。ピョコン!(飛び上がる)
それから赤い紙屑なら、ピョコン!
   餌がやってくる、わたしは飛びかかる、人間がわたしをつかまえる、わたしは逃げる、わたしはまたやって来る、ピョコン!
栗鼠:脳味噌なしめ! 呪ってやりたいな!
子ども(栗鼠に)あの籠はきみの素早い運動や四つの小さな手足や美しい目をよく見るためだったんだ...
栗鼠(皮肉に)まったくだ! それはおれの美しい目のためだ!

彼が話している間に庭は栗鼠がだんだんと増えてくる。樹の上での彼らの愛撫は地上の雨蛙の戯れや愛撫を妨げない。

栗鼠:
おれのその美しい目に何が映ったかおまえは知ってるかい?

一対の夾竹桃色の雀蛾も彼らと同様に戯れる。他の群れもくっつき合ったり離れたりする。

栗鼠:自由な空、自由な風、鳥のようにちゃんと翔べるおれの自由な兄弟だ...
 だが、本当に映ったものを見てみろ! おれの美しい目には...
   涙がいっぱいだったんだ!

庭は虫の翅音が響き、栗鼠たちの目がキラキラして、動物たちの愛情と歓びとの楽園となる。

子ども:彼らは愛し合っている。彼らは幸福なんだ。彼らはぼくのことなんか忘れてしまった。

白い牝猫と黒い牡猫が壁の天辺に現れる。牝猫は愛情を以て牡猫の耳を嘗めて弄ぶ。彼らは追いかけ合って一匹ずつ壁の狭い天辺を歩いて遠ざかる。

子ども:彼らは愛し合っている。ぼくのことなんか忘れちゃった。
    ぼく、ひとりぼっちだ...
    (彼は我知らずに叫ぶ)ママ!


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2013年5月19日 (日)

「羊飼いさんたち、さようなら」〜《子どもと魔法》【限定公開MP3TUBE追加】

「もっと知りたい」という声に応えて、全部は無理ですが、もう少し《子どもと魔法》の一部をご紹介しようと思います。

前回はお姫様のシーンでしたが、今回はそれに続くその前の部分、子どもによって引裂かれた壁掛に描かれていた羊飼いたち、壁紙が引裂かれたことによって離れ離れになってしまった羊飼いたちの歎きの歌のシーンです。ここもまた切なく、悲哀を帯びたコーラスとソロによって、タンブーラン(台本ではタンブーランと書かれていますが、実際使用の楽器はd1音に調律された小ティンパニ)のリズム・オスティナートに乗って牧歌的調べが歌われます。先日びわ湖ホールでのこのシーンの演出は特によく、心に焼付いています。

以下、音楽まるごとを想起しつつ引用します。

小さな笑い声が子供の小声に答える。子供は何だろうと見回すと壁掛の引っかかれた断片がもち上がっているのが目に入った。壁紙に色で描かれた小さな人間の行列がその下から行進して来る。これは少しばかりおかしな、しかしいじらしい行列だ。その中には 女の羊飼い、男の羊飼い、羊犬、山羊たちがいる。葦笛とタンブーランとが行進の伴奏をしている

男の羊飼いたち:さようなら、女羊飼いさんたち!
女の羊飼いたち:羊飼いさんたち、さようなら!
男の羊飼いたち:薄紫色の草の葉の上で緑色の羊に餌をやるのはもうおしまいだよ。
女の羊飼いたち:薄紫色の草の葉の上で緑色の羊に餌をやるのはもうおしまいね。
男の羊飼いたち:鶏頭色の山羊にはもううんざりしたよ。
女の羊飼いたち:やわらかい鶏頭色の子羊にはもううんざりしたわ。
男の羊飼いたち:赤がかった菫色の桜ん坊にはもううんざりしたよ。
女の羊飼いたちと男の羊飼いたち:青い犬にはもううんざり。
男の羊飼いたち:助けを求めるのはね、女羊飼いさんたち
女の羊飼いたち:しなをしての作り笑いはね、羊飼いさんたち
男の羊飼いたち:ぼくたちの愛は永久のようだね。
女の羊飼いたち:わたしたちの葦笛は永久のようだわね。

小さい人々のバレエ、それは踊りながら二度と一緒になれない悲しみを表す。

羊飼いの少年:
いたずらっ子はぼくたちの優しい生活を引裂いてしまった。
       羊飼いをこっちに、女羊飼いをあっちにと。
       いたずら小僧が最初に微笑みを浮かべたのはぼくたちのおかげなのに。
羊飼いの少女:羊飼いをこっちに
羊飼いの少年:羊飼いをこっちに
羊飼いの少女:女羊飼いをあっちに
羊飼いの少年:女羊飼いをあっちに
羊飼いの少女と少年:いたずらっ子が最初に微笑みを浮かべたのはわたしたち(ぼくたち)のおかげなのに。
羊飼いの少女:わたしたちの青い犬に番をさせて眠った恩知らずの子!
       わたしたちの鶏頭色の山羊なんかもう沢山だわ!
羊飼いの少年:ぼくたちの薔薇色や緑色の小羊はもう沢山だ!
男の羊飼いたち:さようなら、女羊飼いさんたち!
女の羊飼いたち:羊飼いさんたち、さようなら!

彼らは出発する。そして彼らと共に風笛とタンブーランの音楽も去って行く。子供はくずれるように地面の上にごろんとのび、折り曲げた肘の上に顔をのせている。彼は泣いている。



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2013年5月17日 (金)

♪ピアノと笛のコンサート〜楽しいお話を交えて〜

昨年に引続き、私の最も敬愛するピアニストの奈良英子さんとフルーティストにして日本の伝統の笛の第一人者西川浩平さんご夫妻による、コンサートのご案内です。
チラシをクリックしますと拡大され、詳細がわかります。

20130602pianotohueno

チラシPDF→ダウンロード

日時▶2013年6月2日(日) 18時半開演(18時開場)
会場▶伊勢原 高木学園2階ホール
料金▶1000円
お問合せ▶高木学園 0463-93-0368

 

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2013年5月13日 (月)

私の《子どもと魔法》の編曲について(追記あり)

私の《子どもと魔法》の編曲について、その特徴と編成(オリジナルとの対称表)をメモしておきます。

●特徴

この編曲は、2002年びわ湖ホール声楽アンサンブルの定期公演におけるこのオペラの声楽パートの全てを歌う16名の同声楽アンサンブルの伴奏室内オーケストラの編成のために為されたものを昨年2012年から今年にかけてさらに改訂を加えたものです。
私の編曲は、基本的にはラヴェルのオリジナルのオーケストレーションの魅力を損なうことなく室内オーケストラ化することに努力が払われていますが、諸条件から独自な 置換え(音色の)・省略、それに独自な 付足し も 為されています。
それに、小節数・練習番号は、デュランのオリジナル・フル・スコアと違いはありませんが、声楽パートの書き方をラヴェルが《マラルメの三つの詩》で採った器楽的記譜法に変えています。しかし、その結果として鳴響く内容に全く違いはなく(後註:つまり書方を変えただけで、この編曲で私は声楽パートのその内容にはノータッチという意味)、また、デュラン社より出版されているヴォーカル・スコアのピアノ伴奏部とフル・スコアのオーケストラ部で若干異なる響きの箇所もあるのですが、声楽アンサンブルの皆さんは、この市販のヴォーカル・スコアで練習されて差支えありません。…あ! そうでした。羊飼いの少年だけは、びわ湖ホール声楽アンサンブルさんサイドからの要請で声種をオリジナルのContraltoからTénorに変えていたのでした。且つ私はContre-ténorでも可能なようにossiaでオクターブ記号も付けています。
尚、デュランのオリジナル楽譜にはミスプリが多く、編曲に当って、往年の名演奏家たちの演奏の録音を比較・調査の上、私の判断でそれらを修正しています。これに関しては今後その詳細をデュラン社宛にこの編曲のスコア等の資料と共に送り、交流を図るつもりでいます。

演奏の難易度は?というご質問には、全員がヴィルトゥオーソでなければならない、とお応えするしかありません。パートによっては極限域に達している場合もあります。それでも打楽器パートは比較的易しいとは思います。
この作品の声楽パート全部を16名でこなしてしまうびわ湖ホール声楽アンサンブルの皆さんのパワーには脱帽!

【追記】私自身が思うこの編曲の良いところは、上演に際し実際の子供たちを必要とせず、大人だけで出来るというところです。


●編成

子供と魔法(高橋喜治による室内オーケストラ版)編成表
(この編成[2,2,2,1/1,1,1/1/Claviers/2,2,2,1,1]は私の決定ではなく依頼者から与えられたものです)

1 Flûte I
1 Flûte II  et  Petite Flûte
1 Hautbois I  et  Flûte à coulisse
1 Hautbois II  et  Cor Anglais
1 Clarinette I en Si♭, en La  et   Petite Clarinette en Mi♭
1 Clarinette II en Si♭, en La  et Clarinette Basse en Si♭
1 Basson

1 Cor en Fa
1 Trompette en Ut
1 Trombone

1 Batterie
 2 Timbales
  Petite Timbale en Ré
  Cymbale suspendue
  Wood Block
  Tambour
  Tam-Tam
  Grosse Caisse
  Eoliphone
  Fouet
  Crécelle à manivelle
  Le livre de bois
  Triangle
  Wind Chimes
  Cymbales Antiques en La#
  Xylophone

Chœur [16 Solistes]
 4 Sopranos
 4 Contraltos
 4 Ténors
 4 Basses
16名の声楽アンサンブルがソリストを含めオペラの声楽部分の全てをこなします。

1 Célesta  et  Piano
オリジナルのLuthéalやHarpeその他の音色を実現するため、これにSynthétiseurを加えたヴァージョンもあります(実のところ稿はそちらのSynthétiseurありで書いたのでしたが、ラフォルジュルネの一公演45分という制限からセッティングの所要時間不足が懸念されたため急遽このCélesta&Pianoヴァージョンを追加編曲したのでした。だから、二通りのスコアができ上がっていると訳なのです)。

2-4 Violons I
2-3 Violons II
2-2 Altos
1-1 Violoncelle
1-1 Contrebasse  (5 cordes)
弦の人数は、
左がびわ湖(ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団)、
右が金沢(OEK)の時のためのもの(ossia譜によ
Pultが増えた分の加筆が若干ある)。

以上、声楽16名
オーケストラ20または23名、総勢36または39名。

上記の「Célesta&Pianoヴァージョン」制作時とリハーサル時に幾つかのの修正もあり、それらを含め、校訂済の以上のスコア二種の完全版原稿は、現在、高橋喜治が所有しています。

._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._._.

子供と魔法(ラヴェルのオリジナル)編成表

2 Flûtes
1 Petite Flûte
2 Hautbois
1 Cor Anglais
1 Petite Clarinette en Mi♭
2 Clarinettes
1 Clarinette Basse
2 Bassons
1 Contre-Basson

4 Cors en Fa
3 Trompettes en Ut
3 Trombones
1 Tuba

打楽器奏者はティンパニ奏者を入れて5名必要。
 2 Timbales
 1 Petite Timbale en Ré
  Cymbales
  Wood-Block
  Tambour
  Tam-Tam
  Grosse Caisse
  Eoliphone
  Fouet
  Crécelle à manivelle
  Triangle
  Râpe à fromage
  Cymbales Antiques en La#
  Flûte à coulisse
  Xylophone

Célesta
Harpe
Piano (Luthéal)

声楽パートはソリストが8〜21
(楽譜番号140からの獣のソロも入れれば23)人、その他に童声合唱、混声合唱を要する。

Violons I
Violons II
Altos
Violoncelles
Contrebasses  (5 cordes)

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2013年5月12日 (日)

祭のあと〜母の日に振返る〜

(ラ・フォル・ジュルネの)祭のあとの淡い侘しさに浸っていたのも束の間、時は矢のように過去っていきます。

先月28日びわ湖ホールでの《子どもと魔法》の本番を終えてから旧友の小杉夫妻との再会も果すことができました。
私が《子どもと魔法》の編曲をすることになった大元のチャンスメーカーこそ旧友で作曲家の小杉卓也君に他ならないのです。久しぶりの再会に話ははずみました。

生憎、3日の金沢公演は行かれなかったのですが、本番15分ほど前には、近所の行きつけの神社で成功を祈願しました。「この上演がどうか聴いてくださった人達に幸せを齎しますように!」と。

4日は同窓生の野瀬百合子さんの前々からのお誘いで東京でのムジカ・ニゲラ公演に出かけました。
根本雄伯さんの編曲・指揮による《カルメン》(ハイライト)は、特別な衣装も舞台セットもない正真正銘の演奏会形式で、アンサンブルの編成もフルート、クラリネット(サックス持替)、トランペット、トロンボーン、打楽器、ボタン式アコーディオン、ギター(アンプリファイ)、ヴァイオリン、コントラバス という9人編成の伴奏に、カルメン:エレオノール・パンクラツィ(メゾ・ソプラノ)、ホセ:ジャン=ジャック・ラントン(テノール)、ミカエラ:ジェニファー・ヴェネン(ソプラノ)、エスカミーリョ:ヴィクラント・スブラマニアン(バリトン)という皆さんの配役により、狭い舞台の上に濃密なドラマを繰広げていました。と言っても、歌手の皆さんは舞台を動き回るというようなことは一切なく、上記の器楽アンサンブルの前に4箇所バランス良く配置された椅子に座り、ソロの時は立ち上がり、ある箇所では座ったままコーラスに回り、という形。下手な本格的大舞台よりも余程ドラマの本質が伝わってきましたが、ひとりひとりの存在感の大きさも去ることながら、人物間に交わされる干渉波のようなものが時にスリリングでさえあり、まさに上質な大人のオペラで、オリジナルと編成は随分と異なるのにも関わらず、まさにオペラ作家(ドラマ・メーカー)としてのビゼーの天才性を十二分に感じさせる演奏でした。

《子どもと魔法》は、最初は「演奏会形式」と聞いていたのにも関わらず、岩田達宗さんの明快でセンシティブな演出によって衣装もアクションも付いた現代的メッセージ溢れる「コンサート・オペラ」として私を驚かせたのでしたが、こちらの《カルメン》は、正攻法の「演奏会形式」で作品の深みを一層認識させられたのでした。どちらが良い悪いで言っているのではありません。どちらの体験も私には得難い幸運でした。

終演後、野瀬さんは私に根本さんに引き合わせてくださって野瀬さんがラヴェルのピアノコンチェルト第2楽章に詞を付けられ私が編曲した〈思い出〉のスコアと《子どもと魔法》のスコアの一部を差上げることができました。
この〈思い出〉は、びわ湖ホールでの《子どもと魔法》上演に併せて演奏できないか?と昨年びわ湖ホールさんに送ったものなのでしたが、この二つの全く別々の作品に私は通底するものを感じています。

丁度同じ日に、アンサンブル大倉山(アカペラコーラスグループ)の成光勝さん直子さんご夫妻から寮美千子さんが私のメロディに詞を付けてくださった混声三部版〈花の子供〉の試演音源が届きました。
何故かこの〈花の子供〉もあるモチーフを軸にして〈思い出〉と《子どもと魔法》と響きあうようです。
そこで、びわ湖ホール声楽アンサンブルの皆さんへこの〈花の子供〉の楽譜を(添付メールで)感謝のプレゼント。

そして今日は「母の日」でした。

お母さんありがとう...。
皆さんありがとう...。

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2013年5月 1日 (水)

「貴女は薔薇の心」〜《子どもと魔法》【限定公開MP3TUBE追加】

前の記事での引用から触発されて、コレットの《子どもと魔法》の中の次の詩もご紹介したくなりました...(「子ども」が歌うこの場面の音楽まるごとを想いつつ引用...)

Toi, le cœur de la rose,
Toi, le parfum du lys blanc,
Toi, tes mains et ta couronne,
Tes yeux bleus et tes joyaux...
Tu ne m'as laissé, comme un rayon de lune,
Qu'un cheveu d'or sur mon épaule,
Un cheveu d'or... et les débris d'un rêve...

貴女は薔薇の心
貴女は白百合の香
貴女のその手と冠、
青い瞳と宝石...
貴女は僕の肩の上に 月の光のような
一条の金色の髪を残しただけで去ってしまった
の金色の髪を..... そして夢の名残を.....


「子ども」はオリジナルでは6才くらいの坊やの設定なのですが、それにしてもませた坊やですね。
それでもこの部分はこのオペラの中でも最も切なく美しい場面です。
私は子供の時に買ったこのオペラのボーカル・スコアに、当時擦切れるほど聴いていたレコードに付録していた台本の訳の全てを五線譜に沿って書込んでいました。そこからこの場面全体をご紹介したいと思います。
今回上演のオペラの字幕は実に素晴らしく簡潔に書かれていました(それによって物語は
容易に時空を超えて身近なこととして私たちへと伝えられるようになっていました)が、こちらの引用は参考までに...です。

物語は、宿題をさぼった子どもがお母さんに叱られた腹いせに、ティーポットと中国製茶碗を掌で弾き飛ばして粉々にし、籠の中の栗鼠をペン先で刺し、猫の尻尾を引っ張り、火掻棒で暖炉の火を引掻回し、湯沸かしを足で引繰り返し、火掻棒を剣にして壁掛けに描かれた羊飼いたちを攻撃し壁紙を引破り、大時計の振子にぶら下がってその振子を取ってしまった挙句、
机の上のノートや本を片っ端から粉々に引裂いてしまうのですが、その後物語は、子どもに破壊され傷つけられたものたちが次々と登場して歎きの歌を歌うのです。(結末は割愛)
その中の、子どもに破られた童話の本の中のお姫様が現れて歌う場面。

以下、音楽まるごとを想起しつつ引用。失礼ながら訳者のお名前が現在判らなくなってしまっていますが、判り次第追記させて頂きます。

(管理人註:「子ども」)は本から引裂かれた紙の上に寝ていた。そして彼が横になっていた紙の山がタイルのようにもち上がって…
…はじめはだらりとした腕、金髪、そして今し
がた目を覚ましたといわんばかりの宝石を飾った腕を延ばしている妖精物語の素晴らしいお姫様の姿がそこに現れた。


子ども
(驚嘆して)ああ、彼女だ! 彼女だ!
お姫様:そうです
 お姫様です。あなたの魅惑のお姫様です
    昨夜あなたが夢の中で呼びかけたお姫様です。
    
昨夜始まったその物語が長いことあなたを眠らせなかったお姫様です
    あなたはひとりで歌いました。
   「彼女は金髪でお日様の色を
した瞳を持っている」と。
    あなたはわたしを薔薇の芯の中に、白い百合の中に探し求めました。
    あなたは子どもらしい
心でわたしを探し求めました。
    そしてきのうからわたしはあなたの初恋の人でした。
子ども:ああ、彼女だ
! 彼女だ
お姫様:それなのにあなたは本を引裂きました。わたしはどうなるのでしょう?
    悪い
ことをする魔術師は
      わたしを死の眠りに追いやったり
      わたしを雲のように散らしてしまうでしょう。
    あなたは初恋の人の運命を無視することを悲しまないのですか?
子ども:ああ、行かないで、ここにいて。

      ねえ、青い鳥の鳴いていた樹はどうなったの?
お姫様
(残っている紙塵を指差して)あの枝をごらんなさい。
    あの果物をごらんなさい。ああ!
子ども
(心配して)あなたの首飾りは魔法の首飾りは?
お姫様:ごらんなさい。ちぎれたその継
輪を。ああ!
子ども:あなたの騎士は? あけぼの色の毛のついた冠をかぶった王子
さまは?
      ああ! 剣を持った王子さまに来て欲しい。
            剣が欲しい、剣が欲しい!
      ああ! 僕の腕の中に、腕の中に!
      いらっしゃい! いらっしゃい!
      あなたを守ってあげましょう!
お姫様
(悲しみに腕をじまげて)ああ! 弱虫の小さなお友達。
      あなたはわたしのために何ができますか?
      夢の長さを知っているでしょうか?
      わたしの夢はたいへん長かった。
      たぶんその夢の終りに
    あけぼの色の毛の付いた冠をかぶった王子
様になったのは
    あなただったでしょう

大地が揺れて彼女の足元で口を開く

お姫様(叫ぶ)助けて! 助けて!
      眠りと夜が、わたしを捕えようとする!
子ども:僕の剣を! 剣を! 剣を!

子どもはお姫様の金髪、着物、白い長い腕をつかまえようとする。
けれども見えない力が彼女を吸い込み、彼女は地下に消えてしまう。

子ども(ひとり残され悲嘆にくれ小声で)
    貴女は薔薇の芯です
    貴女は白百合の香りです
    貴女の手と冠
    青い瞳と宝石

    貴女はぼくの肩の上に
    お月様のような一本の金髪を
    残しただけで行ってしまった

      一本の金髪を… そして夢の名残を…

彼はかがんで残った紙屑の中から妖精物語の切れ端を見付けようとするが、何も出てこない。

 

子どもと魔法@金沢(5月3日於石川県立音楽堂)のご案内はこちら




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